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前橋地方裁判所 昭和38年(行モ)3号 決定

申立人 国土計画興業株式会社

相手方 長野原町

主文

長野原町長桜井武が町議会の議決を経て、昭和三十四年三月二十五日、別紙第一目録記載の長野原町道浅間線につきなした路線の認定並びに公示に基き、相手方長野原町が同年三月三十日、右町道浅間線につきなした道路区域決定及び同年三月三十日、右町道浅間線につきなした供用開始の各行政処分の内、別紙第二目録記載土地部分(但し(ロ)、(ト)、(チ)、(ハ)、(ロ)点を順次結んだ線内部分を除く)について右道路区域決定並びに供用開始を前提とする一切の手続(道路の管理、維持に関する一切の手続、即ち障害物除去並びにその行政代執行手続等一切)の続行は、当裁判所昭和三八年(行)第五号道路認定、供用開始無効確認訴訟事件の本案判決確定に至るまでこれを停止する。

理由

第一、本件申立の趣旨並びに理由は、別紙申立書及び準備書面記載のとおりである。

第二、相手方の意見は、別紙意見書及び補充意見書記載のとおりである。

第三、当裁判所の判断は、次のとおりである。

一、本件記録添付の疏明資料に徴すれば、

(一)  本件一般自動車道は、申立会社の前身である箱根土地株式会社が昭和四年に長野県北佐久郡軽井沢町地内通称峰の茶屋から浅間山麓鬼押出を経て群馬県吾妻郡嬬恋村三原に至る約一九・七キロメートルの自動車道建設を計画し、昭和五年八月二十五日、群馬県知事、長野県知事の道路開設許可を受け、その後法律改正により運輸大臣、建設大臣の免許を得たものとして、申立会社が今日まで右一般自動車道を経営管理しているものであること

(二)  右一般自動車道が相手方長野原町の所有地内を横断するため、箱根土地株式会社は、同町から幅員六間の土地を借り受け、申立会社は、昭和二十八年六月二十三日、同町との間で土地貸借契約書を作成したこと

(三)  相手方町は、昭和三十四年三月三十一日、群馬県が昭和二十九年中に開設した、道路法の適用を受けない道路(同県吾妻郡嬬恋村大字鎌原字モロシコ千五十三番の二十六地先から同村大字鎌原字大カイシコ千五十三番の二十五地先に至る幅員四メートル、延長四千五十メートル)を譲り受け、昭和三十四年三月十一日、嬬恋村議会の承諾決議を得たうえ、同月二十五日、右道路を延長して、同県同郡長野原町大字応桑字地蔵堂千九百九十番の八百五十八地先、二級国道長野原、軽井沢線を起点とし、同県同郡嬬恋村大字鎌原字大カイシコを経て、字モロシコ千五十三番の二十六地内所在自動車駐車場に至る幅員四メートル、延長四千二百メートルを町道浅間線とする旨相手方町議会の路線認定議決を経、同日、右道路の路線認定をして告示し、同日、更に右道路の区域決定をして縦覧に供し、同月三十日、右道路の供用開始をして図面を縦覧に供したこと

(四)  右町道浅間線は、申立会社の所有に係る同県同郡嬬恋村大字鎌原字モロシコ千五十三番の二十七の南方で、相手方町所有地である同字モロシコ千五十三番の二十六の北方、自動車駐車場東方百十余メートルの地点で、前記一般自動車道と平面交差し、別紙第二目録附属図面記載のようになつていること

(五)  そして前記一般自動車道の幅員について、申立会社は、六間を主張し、従つて右道路と町道浅間線との平面交差する部分が別紙第二目録附属図面記載の(イ)、(ロ)、(ト)、(リ)、(ヌ)、(チ)、(ハ)、(ニ)、(イ)各点を結んだ範囲となるけれども、相手方町は、四間を主張するので、右平面交差部分が同図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)点を順次結んだ範囲ということになり、東京地方裁判所八王子支部昭和三八年(モ)第五五四号仮処分異議による執行停止並びに取消事件において、別紙第二目録附属図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)点を順次連結した範囲内の土地につき、通行妨害禁止等仮処分決定に基く執行の停止並びに取消がなされたが、同図面記載の(ロ)(ハ)(チ)(ト)(ロ)点を順次結んだ土地部分については、右決定に基く執行が停止、取消されなかつたこと

がそれぞれ一応認められる。

二、次に別紙第二目録記載(附属図面)の前記町道浅間線と一般自動車道とが平面交差する点について検討する。

(一)  道路運送法が昭和二十六年六月一日に公布され、同年七月一日から施行され、道路法が昭和二十七年六月十日に公布され、同年十二月五日から施行されたところ、道路運送法第七十三条第一項の国又は国の許可を受けた者という部分は、道路法改正の際、当然改正すべき筋合であつたにも拘らず、これを改正しなかつたこと、地方自治法第二百十三条第三項、建築基準法第十八条第一、二項、その他立法上の用語例によるも、国と地方公共団体とを明確に区別していること、旧道路法によれば道路は国家機関として府県知事、市町村長が管理者であつたが、現行道路法は都道府県道、市町村道の管理者を地方公共団体に改めたこと等に鑑みれば、道路運送法第七十三条第一項の「国」なる語は、所謂国又は政府を意味するものであつて、地方公共団体を当然包含していると解することはできない。それだからといつて地方公共団体が道路法による道路を一般自動車道と平面交差させようとする場合、自動車道事業者の承諾を要しないと解すべき何等の理由がない。元来一般自動車道と道路法による道路との平面交差の存否は、道路法第三十条、道路運送法第五十一条第一項、第六十八条第一項、第七十三条第一、二項、高速自動車国道法第十条の各規定に照し、自動車道の構造自体に関するものであつて、一般自動車道事業者は、自動車道建設に当り、特別の場合を除き、原則として道路との平面交差を禁止されているばかりでなく、その維持についても同様である(道路運送法第五十一条第一項、第六十八条第一項、第七十三条第一、二項)こと明らかである。従つて一般自動車道事業者が自動車道と道路との平面交差を承諾する場合にも、構造変更許可を受けるべきは当然である。

仮りに道路運送法第七十三条第一項に所謂国は、当然地方公共団体をも包含すると解せられるとすれば、地方公共団体が道路法による道路を一般自動車道と平面交差させようとする場合、一般自動車道事業者の承諾を得なければならないのであり、拒絶された場合、右自動車道の構造変更命令がなければ、平面交差することができないことは、右法条に照し自明の理である。

(二)  そこで相手方町の町長が昭和三十四年三月二十五日、前示町道浅間線につき、町議会の路線認定決議を経て、右路線認定のうえ公示し、更に相手方町が右道路の区域決定をした後、同月三十日、右町道の供用開始をすると共にこれを公示したのであるが、同年二月頃、相手方町は申立会社から、右町道浅間線と前示一般自動車道との平面交差を明白に拒絶されたことを本件記録添付の疏明資料により一応認め得るのであつて、申立会社の右拒絶後、右平面交差について、主務大臣の一般自動車道の構造変更命令がなされたことを推認できる資料もなく、その他右平面交差が法規に適合するものであることを窺知するに足る資料は全然存在しない。

尚相手方町は、昭和二十八年六月二十三日、期間九ケ年と定めて、前示平面交差部分を含む町有地を前記一般自動車道敷地として、申立会社に無料貸与したと主張しているのであつて、昭和三十四年三月当時、右平面交差部分は、申立会社の占有、管理中に係るものであつたこと明々白々というべく、相手方町が申立会社の承認もなく、右平面交差部分の使用権を如何なる権原に基き取得したかその根拠を探究するに苦しむのである。相手方町は、その他彼此意見を述べているけれども、独自の見解に基因するもので、採用することを得ない。

(三)  更に又申立会社は、町道浅間線と前記一般自動車道との平面交差につき、構造変更命令もなく、構造変更許可もされていないのであるから、道路運送法第六十八条第一項の規定により、右平面交差の存在しない状態で、右自動車道を管理しなければならない法律上の義務を負つているといわねばならない。

三、進んで公共の利益ないし福祉並びに回復困難な損害の点について考究する。

(一)  前記町道浅間線が昭和三十四年三月三十日、供用開始されて以来、一般国民の用に供されているのであつて、その利用が停止された場合は、公共の利益ないし福祉が阻害されるのは、当然である。

(二)  他方前示一般自動車道が昭和五年使用開始されて以来、国民の用に供されているのであるから、近時自動車の激増に伴つて、右道路の利用度も急激に高くなつたことを窺い得る。

(三)  そこで前記平面交差利用許否に因る公共の利益ないし福祉に関しては、その比較衡量によつて決するを相当とする。

先づ町道浅間線と右一般自動車道との平面交差については、前認定の通り法規に適合するものであることが極めて疑わしく、従つて右交差部分が供用開始の結果、一般国民の用に供されていたとするも、それによつて受ける公共の利益は、適法性を欠くと言い得ないこともないのであり、右交差部分を使用し得ないことによつて、従来享受されていた公共の利益ないし福祉に影響を及ぼすことも、已むを得ないと言えないこともない。

元来自動車を利用する国民は、通行料を支払つて右一般自動車道を通行するのであるが、道路法による道路と異つた高速度の通行、高度の安全性が確保されているからこそ多額の通行料を敢て負担するのであつて、特別の遮断設備もない右平面交差附近で、一般自動車は勿論、歩行者が随時横断しているのであつては、自動車だけが高速で通行するため絶対の安全性が確保されていなければならない一般自動車道本来の目的に反し、国民の期待を裏切るもので、何時発生するやも知れない交通事故の発生による損害は、人命に関する重大なもので、公共の利益ないし福祉に重大な影響を及ぼすものといわねばならない。

(四)  以上の通りであるから、町道浅間線をして前示一般自動車道と平面交差せしめた侭、一般自動車及び一般歩行者の通行を許容すべきものとすれば、申立会社をして道路運送法第五十一条第一項、第六十八条第一項に違反する状態を強要ないし強制し、甘受せしめる結果となるばかりでなく、又道路法による道路と異つた高速度の通行、高度の安全性が確保されていなければならない一般自動車道本来の目的を著しく阻害し、交通事故に基因する人命に関す危険の絶対的防止の目的に反するのであつて、これらはいづれも到底金銭をもつては勿論その他いかなる方法によつても回復し得ない重大な損害であると断ぜざるを得ない。

四、本件執行停止の緊急性について考えるに、

(一)  申立会社が相手方町を債務者とする前橋地方裁判所昭和三七年(ヨ)第五一号仮処分事件において、同年六月十一日、前示一般自動車道敷地の内、前記平面交差部分を含む相手方町からの借受に係る敷地の占有、使用、一般自動車の通行妨害禁止の決定を得た後、仮処分異議事件(同年(モ)第一四七号)で、昭和三十八年四月十一日、勝訴の判決を受け、現在控訴審に係属中であること

(二)  申立会社が昭和三十八年五月五日、前記平面交差部分に木柵、有刺鉄線を用いて町道浅間線を閉塞したところ、相手方町が同月二十日(月曜日)付障害物除去の戒告処分をし、同月二十五日(土曜日)付代執行令書に基き、同月三十日(木曜日)これが執行をしたこと

(三)  申立会社が右代執行直後、同一場所にガードロープ等を用いて再び町道浅間線を閉鎖すると共に、翌三十一日、前橋地方裁判所に一般自動車道施設保護仮処分申請(同年(ヨ)第五四号)をし、翌六月一日、右仮処分決定を得たところ、相手方が仮処分異議申立(同年(モ)第一三九号)をすると共に、右異議申立による仮処分執行停止申請(同年(モ)第一四〇号)、特別事情による仮処分取消申立(同年(モ)第一四一号)をしたが右執行停止申請事件が却下されて現に抗告審に係属し、他二件が当裁判所に係属中であること

(四)  申立会社が六月二十七日(木曜日)付で、右ガードロープ等障害物を同月二十八日(金曜日)中に撤去すべき旨相手方町の戒告処分を受けたので、同日、前橋地方裁判所に戒告処分取消訴訟(同年(行)第三号)を提起すると共に、行政執行停止の申立(同年(行モ)第一号)をし、翌二十九日(土曜日)停止決定を得たが、現在抗告審に係属中であること

(五)  ところが申立会社が前記同一物件につき、昭和三十八年七月六日(土曜日)付で、右障害物を同月七日(日曜日)中に撤去すべき旨、同月八日(月曜日)より三日間内に代執行すべき旨相手方町の戒告処分並びに代執行令書を受けたので、右処分受領即日、翌日に亘り、長野原警察署に保護願を提出すると共に警察官派遣方要請したが、同月八日(月曜日)早朝、相手方町が町長、助役、弁護士、住民等約百名を動員して、行政代執行をしようとしたので、申立会社も亦使用人、職員、弁護士等約五十名を現場に集結せしめて相対立し、互に激論に及び、又前記昭和三八年(ヨ)第五四号仮処分決定によりガードロープ敷地を占有する執行吏も現場に臨み、又警察官約三十名も出動して警戒に当る緊急状態となつたため、右署長も黙止し得ず斡旋の結果、申立会社がガードロープ約六メートルを取り外すことにより事態が収拾され、一方同日前橋地方裁判所に同年(行)第四号行政事件が提起されると共に行政執行停止申立(同年(行モ)第二号)がなされて、現に当裁判所に係属していること

(六)  他面相手方町においては、急拠仮処分申請の準備をし、前橋地方裁判所昭和三七年(ヨ)第五一号、昭和三八年(ヨ)第五四号各仮処分事件の決定並びに昭和三七年(モ)第一四七号仮処分異議事件の未確定敗訴判決を秘し、昭和三十八年七月十一日、東京地方裁判所八王子支部に道路通行妨害禁止等仮処分申請(同年(ヨ)第一二〇号)をして、同月十二日、別紙第二目録附属図面記載の(イ)、(ロ)、(ト)、(チ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(イ)各点を結んだ範囲内につき仮処分決定を得て執行したけれども、申立会社の申立による同庁同年(モ)第五五四号事件で、同年八月三日、別紙第二目録(附属図面)記載の前記平面交差部分の内、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)点を順次結んだ範囲につき、右仮処分の執行取消並びに執行停止の決定を得たこと

(七)  申立会社が同年八月五日、執行吏に委任して右執行取消決定を執行すると共にガードロープ約六メートルの設備をして、右平面交差部分を再び閉鎖したこと

の各事実を本件記録添付の疎明資料によつて一応認め得、ないしは当裁判所に顕著なところであつて、以上の事実に照せば、相手方町においてガードロープ等障害物除去の行政代執行を何時執行するやも知れないことを予測できるのであるばかりでなく、この侭放置推移せんか、相手方町の再度の行政代執行、申立会社の行政訴訟提起に伴う代執行停止、更に行政代執行と無限に繰返される虞なしとせず、止まるところを知らざる混乱状態となり、行政訴訟の本案判決確定まで一応秩序を維持、確保し、法の安定性を期待する執行停止の目的を達成できないと推論せざるを得ない。

第四、以上のとおりであるから本件申立理由を相当と認め、本件申立の範囲内で主文のとおり決定する。

(裁判官 細井淳三 秋吉稔弘 荒井真治)

(別紙)

第一目録

町道浅間線

起点 群馬県吾妻郡長野原町大字応桑字地蔵堂一九九〇の八五八

終点 群馬県吾妻郡嬬恋村大字鎌原字モロシコ一〇五三の二六

第二目録

群馬県吾妻郡嬬恋村大字鎌原字モロシコ一〇五三番の二六、保安林五五五町一反二畝一五歩のうち長野県北佐久郡軽井沢町所在の峰の茶屋より三原へ通ずる自動車道と浅間牧場より町営鬼押出駐車場に通ずる町道とが交差する別添図面表示(イ)、(ロ)、(ト)、(リ)、(ヌ)、(チ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次に結ぶ線内部分。

図〈省略〉

(別紙一)

行政執行停止決定申立

申請の趣旨

被申立人が昭和三四年三月二五日別紙目録記載の如き町道浅間線として認定公示し、同月三〇日区域決定公示並びに供用を開始した該町道供用開始のうち別紙目録記入の行政処分は、昭和三八年(行)第五号道路認定供用の無効確認訴訟が確定するまでこれを停止する。との御裁判を求める。

申請の理由

一、申立人は浅間高原、吾妻地方の観光並に産業開発の目的のために昭和四年中峰の茶屋から鬼押出しを経由して三原までの間約一九、七キロの自動車道路の建設を計画し、被申立人長野原町を始め関係町村並に地元民の要請、協力をも受け、莫大なる建設費と多くの労力を投入し、土木技術の未熟な当時としては実に血の出るような苦心をして建設をした結果、今日の如き自動車道路としてその完成をみたのである。そして昭和五年八月二五日長野県知事並びに群馬県知事から自動車道開設の許可を得、後に運輸大臣、建設大臣の免許を経、それ以来三〇余年申立人は右自動車道の経営管理をして来たものであるが、申立人としては利益の採算を度外視して毎年多くの補修費等をかけ、今日迄多くの犠牲を払つて右道路の維持管理に努めて来たのである。従つて右道路の開設以来浅間高原地方の観光及び産業の発展は著しいものがあつたのであり、被申立人長野原町もそれにより多大の恩恵を蒙つているのである。

二、被申立人は申立人の右自動車道の間である群馬県吾妻郡嬬恋村大字鎌原字モロシコ一〇五三番の二六の地点において、これにやや直角的に接続すべく同郡長野原町大字応桑字地蔵堂一九九〇の八五八より従来の山道を拡幅し、その延長四、二キロを昭和三四年三月一三日その行政区域である同郡嬬恋村の承諾を経、同月二五日被申立人町議会の議決を経て町道浅間線として認定公示し、同月三十日区域決定公示並びに供用を開始したというのである。ところで、右供用開始は、前記述の地点である鎌原字モロシコ一〇五三番地二六の申立人の経営に係る一般自動車道の接続部分のみまでと思料していたところ、ごく最近である昭和三八年六月一八日申立人の一般自動車道上にも道路の供用が開始されたものであるという被申立人の主張をきいて驚いた次第である。本件に関連する貴庁別件(御庁昭和三七年(ヨ)第五一五五号事件等)において、一般自動車道上における町道認定の事実はきいていたが、供用開始ないし公示の点は主張されなかつたので、使用開始はなきものと思料していたのである。しかしこのような町道供用開始は左記に述べる理由により当然無効であるので、申立人は町道認定供用開始無効確認等訴訟を御庁に提起し、目下御庁に係属中である。

(一) 法律上道路認定そのものは、他人の物件上であろうと否とを問わず、自由にこれをなし得ようが、供用開始には種々の法律上の手続を得なければならぬのである。

今これを本件についてみるに、被申立人は、申立人の一般自動車道上に被申立人の町道を認定公示することは可能であつても区域決定並びに供用開始の公示には一般自動車道経営者たる申立人の承諾を得なければならないのである。

(二) しかるに被申立人は未だかつて一度たりとも申立人に対し道路認定公示の点、これに伴う区域決定方の交渉の申入れ、並びに供用について何等の申入れをしていないのである。申立人が右区域決定公示並びに供用開始の点を知つたのは、訴訟上における被申立人の主張として(御庁昭和三八年(ヨ)第五四号事件における債務者即ち被申立人の昭和三八年六月一三日付仮処分決定に対する異議申立書)はじめて知るに至つたのである。

しかも、被申立人の該主張においては供用を開始したというのみで、供用公示の日を明確にしないため、申立人、被申立人間の別件である御庁昭和三八年(モ)第一四〇号仮処分執行停止事件における昭和三八年六月一八日の審尋期日に申立人代理人丸山一夫弁護士の尋問に対し、被申立人町助役唐沢和夫が供用開始公示は区域決定公示の日であると述べたことによつてはじめて公示の日を知るに至つたのである。

(三) 重ねて陳述するに、前記の如く該供用開始前申立人の自動車道上における被申立人の町道認定、区域決定、供用開始等につき申立人に何等の通告がなされなかつたのである。申請外嬬恋村々長においても、同村内に被申立人長野原町の町道が設けられることにつき承認を求められたので、その承認はしたが、申立人の経営する一般自動車道上の部分については何等の承認もしていないと別途述べていることによつても、この点明白である。申立人は被申立人の右供用開始の公示についても大いに疑問をもつているのであるが、かりに供用開始の公示がなされたとしても、右申立人の主張によつて明白のとおり、供用開始の公示並びに用供開始は当然無効なのである。

三、云うまでもなく、被申立人の右町道なるものは、道路法にいう道路であるのに反し、申立人の右一般自動車道は道路運送法上の道路であり、自動車専用道路にして人の通行は原則として禁止されているのである。而して一般自動車道に接続せしめて道路法上の道路を造つた場合、道路運送法第五一条の規定に従つて立体交差による横断認容方の申入れをなし、一般自動車道経営者と協議決定の上、その施設をなすべく、なおそれについては運輸省並びに建設省の認定も必要なのである。かかる場合、道路法にいう道路管理者と一般自動車道経営者の間において協議がととのわない場合は、道路管理者に対し、道路運送法第七三条は運輸大臣、建設大臣にその裁定方の申立をなしうること、その申立があつた場合は運輸大臣、建設大臣はその裁定をしなければならないことを規定してあるのである。

右道路運送法第五一条、同第七三条によつて明白な通り、一般自動車道に接続せしめて市町村等が道路を造つたからとて、当然に該一般自動車道に自動車を乗り入れせしめたり横断したりすることは法律上許されないことであり、ましてや道路法上の道路から自動車道に人を通行せしめることも許されないのである。昭和三四年以前より一般自動車道を横断するものが、まれにはあつたが申立人は勿論、一般自動車道の横断、乗入れ、歩行を禁止し、今日に至つたのである。

被申立人に対する再三の注意にも拘らず、被申立人は横断歩行等禁止の方法をとらなかつたのであるが、偶々観光ブームの勢いに従い昭和三八年四月末より五月にかけての所謂ゴールデンウイークの頃より町道より原告の一般自動車道に乗り入れようとする自動車並びに歩行せんとする人々が増加し、一般自動車道の交通が著しく阻害され、人命の危害等交通事故の発生が必至の状態となつたので、申立人は道路運送法によつて課せられた交通安全擁護の立場からその施設として町道と一般自動車道との接続する部分一般自動車道敷地内に木柵を設けたところ、被申立人はこれを目して交通遮断なりとして、行政代執行により該木柵を撤去する旨の通告(昭和三八年五月二〇日)をして来たのである。そこで申立人は、前記述のように、一般自動車道と道路法上の道路との法的相違且つは一般自動車道に接し町道を認定供用開始したからといつて、当然に一般自動車道に自動車を乗入れることはできないこと、横断の場合は立体交差の施設を設けなければならず、横断によらず自動車を乗入れるにしても、インターチエンヂその他交通安全の施設をなす承諾を得てこれを実施しなければならないこと、該木柵は道路管理者として道路運送法に基ずき交通安全擁護のため設けた施設で、決して交通を遮断するものではないこと、等、詳細な説明をしたのであるが、これに一べつも与えようとせず、遂に同年五月三〇日代執行の名の下に延長約四〇米に及ぶ(町道の幅員は五米)該木柵全部を撤去の暴挙を散行したのである。

四、申立人は被申立人の代執行に名をかりた、かかる木柵撤去の所為は、違法も甚しいものと思料し、交通安全擁護のためガード等の設備をなし、且つは民事上の事案として、一般自動車道施設保護仮処分の申請をなし、御庁昭和三八年(ヨ)第五四号事件として係属し、同年六月一日「債務者すなわち被申立人は右土地上にあるガードロープその他一般自動車道附属施設を毀損、撤去その他右施設の効用を失わせる一切のことはしてはならない」等の仮処分決定をうけたのである。

五、しかるところ被申立人長野原町はしようこりもなく重ねて申立人に対し、昭和三八年六月二七日付戒告書で翌二八日限りのガードロープ撤去方の戒告をなし来たつたのである。申すまでもないことながら、行政代執行は法律により直接に命ぜられ、または法律に基づき行政庁に命ぜられた行為について、義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、かつその不履行を放置することが、著しく公益に反すると認められたときに限り許容されるものである。換言すれば、代執行をうける著しく違法性の存するものであり、当事者もその違法を認めながらも、直ちにその命令に応ずる費用がないというがごとき場合、即ち、顕著な違法建築をなし、建築主がその違法を認めながら、費用の支出等に困つて行政庁の命令に応じないような場合に行政代執行法の適用があり、代執行が許容されるのである。然るに本件は、申立人の行為が適法であり、被申立人の行為は違法なのである。このことは前叙のごとく道路運送法の適用をうける一般自動車道と道路法の適用をうける町道との接続に関する手続施設がなされてはじめて一般自動車道の横断ないし乗入れが法律上可能となることによつて明白なのである。それがなされない限り、自動車道と町道との間には、法律上交通往来ということはないのであつて、ガードロープの設置は交通の妨害どころか、反つて交通安全確保のための設備であり、従つて、ガードロープによつて交通が遮断されたという事態もないのである。申立人の承諾もなく協議決定の手続、施設も経ずして無断一般自動車道に接して町道を作り、自動車道の横断ないし乗入れをなすことは違法も甚しいもので、この明白な道理が、被申立人にどうしてわからないのか、諒解に苦しむ次第である。

そこで申立人は、六月二九日御庁に対し右六月二七日付ガードロープ撤去の戒告を取消すべき行政訴訟を提起すると同時に、右戒告書にもとずく代執行停止申請(昭和三八年(行モ)第一号)をなし貴庁からその執行停止の決定をうけたが、その直後すぐさままた再び代執行をなすべく七月六日付で、又もや法の規定する「相当の期間」をも無視し、ガードロープ撤去方の戒告をなして来たのである。そして右戒告書は七月六日土曜日の申立人会社職員のいなくなつた午後配達せしめ、その内容は翌日曜日一日で撤去せよと云うもので、裁判所に対し一切救済手続をさせないようにしながら日曜あけの九日の未明代執行をなさんとする無茶苦茶のもので法を濫用するも甚しく将に狂気の沙汰である。町長としての公職にあるものの態度ではない。

六、叙上のような次第から、もしも本案の供用開始無効確認訴訟が終結するに至るまで放置しておいたならば、被申立人は、その間隙を利用して代執行をしてしまうこと必至であり、代執行がされるに及んでは、不祥事件の発生も考えられるし、前叙のごとく申立人の一般自動車道上には自由に人や車が出たり入つたりして交通事故を誘発させることにもなりかねず、人命保護の立場からも事態は極めて緊急であるばかりか、申立人会社としてもこれによつて莫大な損害をうけることにもなるので、速やかに御庁におかれては、申請趣旨記載の如き執行停止決定相成り度く本申立に及んだ次第である。

昭和三八年七月一五日

目録

道路認定の日 昭和三四年三月二五日

区域決定公示並びに供用開始公示の日

昭和三四年三月三〇日

区域 起点  群馬県吾妻郡長野原町大字応桑字地蔵堂一九九〇の八五八

終点  群馬県吾妻郡嬬恋村大字鎌原字モロシコ一〇五三の二六

の内右鎌原字モロシコ一〇五三の二六の一般自動車道敷地の部分

道路の通称 町道浅間線

(別紙二)

準備書面

一、申立人の経営占有に係る峯の茶屋――鬼押出し間の一般自動車道上に違法なる被申立人長野原町の浅間線なる町道の区域決定がないのは勿論その供用開始のないこと、仮に何らかの公示がなされたとしても、申立人の承諾を得ないのであるから、その手続は無効であり、結局自動車道上における町道の供用開始が全く存しないことになるのであつて、その詳細はすでに昭和三八年七月一五日付代執行停止決定申請書の申請の理由で陳述した通りであり、更に附加する必要がないとも思料する次第であるが、東京地方裁判所八王子支部において同庁仮処分決定の停止決定のあつたこと、並びに申立人の主張を裏付ける適確なる疎明資料の説明のため以下附言する。

二、被申立人代理人等は訴訟慣行を無視し、前橋地方裁判所において申立人の申請によつて発せられた被申立人長野原町に不利益な代執行停止決定、仮処分決定を隠秘して、東京地方裁判所八王子支部に仮処分申請をなし、前橋地方裁判所の仮処分決定と抵触する仮処分決定を受けるに到つたのである。

右の如きは事案を混乱にみちびき、多忙な裁判所に煩雑な手数をわずらわす事に相成り、遺憾と思料し乍も、相抵触する仮処分の取消は必然であり、申立人は取消の申立をなすと共に、該仮処分決定効力停止の申立をなしたるところ、本昭和三八年八月三日東京地方裁判所八王子支部において、右停止の決定を受けたので別添疎明資料として、之を提出する次第である。

三、次は前叙一般自動車道上に、町道の供用開始なかりしことの適確なる疎明資料の点であるが、被申立人は申立人との別件である御庁昭和三七年(モ)第一四七号仮処分決定異議事件において、その第一準備書面中

「(3)昭和三十四年一月十七日債務者と訴外東急とが提携して浅間登山バス道路を作る計画をたて、これが実現のため債務者代表者町長桜井武、助役、町議会議長他町会議員二名合計五名が債権者会社千ケ滝出張所長東五郎を訪ね本件道路敷地として債務者が債権者に貸付け、債権者が経営している有料道路を前記登山バスが横断する件について、債権者の諒解を求めた処、横断させることは出来ないと断わられたので、右登山バス計画は実施不可能となつた。」

と陳述しているのである。

この点から見れば、申立人の承諾も得られず、申立人の一般自動車道上に町道の供用開始がなされない事は被申立人長野原町の主張自体明白となるのである。

仍つて之を疎明資料として提出するものである。

四、更には長野原町々長桜井武も同事件の本人尋問において、

自分は昭和三四年一月頃当時の議長市村武平、議員の小出三省、高山まさいちろう、さん等と二回にわたり、国土計画興業株式会社千ケ滝出張所長東五郎さんを訪れ自動車道路の横断方依頼しましたが、一回目は上司に聞かなければ解らんといわれ、二回目は一般自動車道路なので、そうたやすく横断は出来ないんだから駄目だと云つて断られた。

旨供述しておる次第で、この町長の供述からも、一般自動車の部分については、町道を交差横断せしむる為の両者間協議の全然なかりしことを証明する次第であり、従つて使用開始のなかりし事は自明なのである。この長野原町々長桜井武の口頭弁論調書を疎明資料として提出するものである。

五、以上要するに申立人の主張は、適法妥当であり、行政執行停止決定を求める必要性が充分存するので御賢察の上、速かに行政執行停止決定を賜りたいのである。

(別紙三)

意見書

申請の趣旨に対する答弁

本件申請を却下する。

との裁判を求める。

申請の原因に対する答弁

一、第一項は、争う。

二、第二項のうち、被申立人が、申立人の主張の町道浅間線を同人主張の日に認定公示し、且つ区域決定公示並びに供用開始したことは認めるが、その他は争う。

三、第三項のうち、申立人が町道上に木柵を設置したこと、被申立人が昭和三八年五月二〇日右木柵を撤去すべき旨の通告をなしたこと、同月三〇日代執行をしたことは認めるが、其の他は争う。

四、第四項のうち、申立人が、仮処分決定を受けたことは認めるが、その他は争う。

尚右決定は被申立人を審尋せずして一方的になしたものであり且つ違法の決定であるので、被申立人は異議の申立てをなし(御庁昭和三八年(モ)第一三九号)現在係争中である。

五、第五項のうち、被申立人が昭和三八年六月二七日付戒告書で戒告したこと、申立人が同月二八日代執行停止申請をなし翌二九日決定を得たこと、並びに被申立人が同年七月八日代執行をなしたことは認めるが、その他は争う。

尚申立人が得た右停止決定は、六月二八日申請に係り裁判所は同日前橋市内水道会館に会議出張中の被申立人助役唐沢を呼出し、翌二九日午前一〇時迄に意見書を提出すべき旨命じたもので、町長が、これを知つたのは二九日午前六時であり町長は当日午前九時より農業委員会、午後一時より町議会出席のため意見書提出の時間がなく、ために、七月一日迄延期方要請中にも拘らず意見を聞いたものとしてなしたもので、これは意見聴取の催告期間が著しく不当に短く被申立人の意見陳述の機会を奪つたものであり、且又停止の要件がないのになした違法の決定であるので、現在抗告中である。

六、第六項は争う。

被申立人の主張

第一点申立人の被保全権利の不存在

一、申立人が本件停止を求める対象物件たる嬬恋村大字鎌原字モロシコ一〇五三番の二六の土地の内町道浅間線と一般自動車道敷地との交差点部分は、申立人はこれを不法占有している者であつて、不法占拠者からの本件申立は根本的に許されないものである。以下その理由を略述する。

1、右一般自動車道は全長一九・七キロメートルでその内約一三五〇メートルについては、町有地(基本財産)である右モロシコ一〇五三ノ二六の土地上を通つているものであるが、右土地については当初昭和四年一〇月八日左のような無償貸付契約が本件当事者間に締結された。即ち、

一、所在   吾妻郡嬬恋村大字鎌原字モロシコ一〇五三ノ二六長野原町有基本財産地内

二、実測   三一六八坪

三、使用目的 私設道路敷用地

四、貸借期間 昭和四年一〇月八日より向う一〇年間

五、貸付料  無料

六、借受人  本件申立会社

七、特約   被申立人に於て必要があるときは貸付期間内と雖も返還を求めることが出来、この場合は申立会社は直ちにこれを返還しなければならない。(その他略)

そして申立人はこれを観光用専用自動車道とすべく工事を開始した。

2、然るところ、右貸付期間の満了の以前より、支那事変が勃発し所謂戦時となつたため、観光自動車道の如き国策上不要不急の閑物(当時としては)については等閑に付され、期間満了後、申立会社はこれに関心なく、そのまゝ放置し来つたもので被申立人もこれを返還されたものと思つていた。

3、ところが昭和二六、七年になり申立人が、被申立人に無断で貸付跡地を再び道路状に修復しはじめたので被申立人はこれに対し抗議を申し入れ種々接渉の結果、昭和二八年六月二三日、貸付期間を将来に向つて九ケ年に限定しその他の条件は昭和四年の右契約文言に準拠して貸付契約を締結したものである。従つて昭和二八年の右無償貸付契約は昭和四年の契約が更新されて来たことを意味するものでない(若し順調に更新されて来たものならば昭和一四年、昭和二四年と順次更新されて来るべきもので書面もこの更新期に作成されて来ている筈のものであるが斯かる書面は作成されていない)。而して昭和二八年に至り、更新期と懸け離れた年に態々書面を作成し且つ期間を一〇年でなく九年とした所以は、従前来被申立人としては昭和一四年の経過により契約期間たる一〇年が経過満了したので使用借権が消滅しそのまゝ返還を受けていたものと考えてそのまゝにしていたところ、再び昭和二六、七年になつて申立人が無断で復元工事をはじめたので右にのべたように被申立人はその無断使用を拒否し交渉の末、昭和二八年六月に至り従前の事実及法律関係はとも角とし、昭和二八年六月二三日より将来に向つて九ケ年に限り、無償使用を認めることにしたもので、これにより従来の関係を事実上、結果的に更新したものともみられるが従前の、昭和四年の契約が、一〇年毎に更新し来つたことを認めたものではなく、唯当時の関係を円満に整理するにつき向後九ケ年にしぼつて(限定して)その期間の経過により返還を受けることを明らかにするために書面を作成し、九年として契約したものである。従つてこのことは従来の関係を整理したものという取扱であつたことでもあるから、町議会の議決を経ては居ないのである。

向後九ケ年に限定しこれに従うことを確認した事実は、昭和二八年という年が、一〇年の更新時期に該当しないこと、貸付期間が一〇年でなく九年と定められたこと、この契約につき町議会の議決を経ていないことなどによつても明らかである。

二、地方自治法等の規制

1、地方財政法第八条には、「地方公共団体の財産は条例又は議会の議決による場合を除くほか、これを交換しその他支払手段として使用し又は適正な価格なくしてこれを譲渡し又は貸付けてはならない(一項)と定め、(これは無償貸付を禁ずる趣旨である―長野士郎著逐条地方自治法参照)更に、地方公共団体の財産は常に良好の状態においてこれを保管しその所有目的に応じて最も効率的にこれを運用しなければならない(二項)と明定している。

右昭和二八年の無償貸付契約は、町議会の議決を経ていないから右規定の趣旨に違反し無効論も成り立つ余地があるが、いつにても町に於て必要なときは返還を受け得るという条項が附されているからこの点を考慮して有効性を肯定して支障なきものと思料する。しかし乍ら斯かる無償契約状態は速やかに解消すべきことが同法の精神に合するものであり、地方自治体の財産的基礎を堅固に維持する上に必要なことである。

2、地方自治法第九六条は町の議会の議決事項を列挙しているがその第一項第六号に基本財産の設置、管理及び処分を掲げている。同項中の第七号、第八号、第九号等と同法第二一三条第二項との対照上からみても右議決事項は例外的場合(同法第一七九、一八〇条)を除き予め議会の議決を得なければこれを執行することが出来ないしこれに違反した場合はその全部又は一部が無効となるものと解すべきである。

右昭和二八年の契約についてこれを見ると、その契約は地方公共団体の長たる町長が申立人との間になされたが町議会の議決を得ていないので、処分の権限を有せざる者の貸付行為で民法第六〇二条の類推適用(本件は使用貸借であるから)により有効期間は九年でなくして五年に限定されるべきものである。従つて昭和三三年六月二三日の経過により右昭和二八年の基本財産たる土地の使用貸借上の使用借権は客観的に消滅しているものである。

3、仮に九ケ年の効力があると仮定しても、右契約条項中には町(被申立人)に於て必要が生じたときはいつでも返還すべき旨の特約が存するのであり、被申立人は町道に認定する一―二ケ月前である昭和三四年一月及二月七日の二回にわたり本件申請書添付目録の交叉点部分につき返還条項に基き一部返還(解約)の申入を行い、その前後を通じ引続きこれを通行の用に供し実際に通行できる限度に於て返還を受け同年三月町道に認定し、行政区劃村である嬬恋村の承認を得、且つ区域決定をなし供用開始の告示をなしその頃より供用を開始(町道として)し今日に至つているものである。

4、而して昭和三七年五月一八日附書面を以て九ケ年の期限満了と共に即ち昭和三七年六月二二日の経過と共に右一般自動車道敷地三一六八坪を返還せられたき旨請求し、申立人に返還の準備を促したところ、申立人は言を左右にしてこれに応ぜずして右期限を徒過しているのであるから、もはや何ら正当なる権限をも有しないのである。

5、地方自治法第二一三条第二項によれば地方公共団体の重要なる財産は一〇年をこえる独占的な使用許可を第三者に与えるにつき住民投票又は町議会(等公共体議会)の議決(特別決議)を要件としている、更に又附則第三条(昭和二三年法律第一七九号附則)に於ても「この法律施行の際現になされている地方公共団体の財産又は営造物の使用許可で改正後の地方自治法第二一三条第二項の規定に基く条例により定められた独占的な使用許可に該当するものはこの法律施行の日から一〇年以内に夫々改正後の同条の規定による手続を経て必要な同意を得なければこの法律施行の日から一〇年を経過したときは将来に向つてその効力を失う」と規定している。このように地方自治法は公共団体の永続性公共性からその物的基礎たる重要財産につき厳重なる規制を加えているのであるからかゝる法意からみても本件敷地は契約期間の満了により返還されるべきものであることは明白なことなのである。

6、被申立人長野原町は群馬県等の指導の下に昭和三一年町の条例として長野原町財産及営造物条例を制定した。同条例の内容は多くの他の地方公共団体も採用制定したものでその内容の普遍的妥当性の存在は勿論であるがその内の関係箇所を摘出してみると、

(一) 第一条に於て町有財産の取得管理及処分は原則的にこの条例が規律するものなることを定め、

(二) 第二条に於て「財産」とはいかなるものであるかということを列挙し、(その中に不動産及、基本財産が掲げられていることは云うまでもない。)

(三) 第一五条に於て土地の貸付は一〇年を超えてはならない旨規定し、

(四) 第一九条には、貸付の場合の文書(特約)として、「貸付期間中でも公用、公共福祉用、若くは公益事業の用に供するため必要が生じたとき又は町において必要を生じたときは契約を解除することが出来る権利を留保すること」の趣旨を附すべきことを定め、

(五) 第二八条には、「次にかゝげる財産又は営造物の独占的な利益を与えるような処分又は一〇年をこえる期間にわたる独占的な使用を許可しようとするときは議会において出席議員の三分の二以上のものの同意を得なければならない」とし、その第一三号に「壱件壱千坪以上の土地」を掲げている。

右条例制定以後は本件三一六八坪は当然議会に於て三分の二以上の同意ある議決に俟たなければその貸付契約の効力を有しないことはことに喋々するまでもない次第である。

斯かる種々の立法からみても、前記昭和二八年の契約が更新されるべきものか否かは明らかであり、たとい昭和四年の契約が更新されて来たとみてもこの理は変りがない。更新は、新地方自治法、地方財政法、右長野原町財産及営造物条例に照しあり得ざることである。申立人の本件土地についての使用借権は遅くとも昭和三七年六月二二日の経過により完全に消滅しているのである。

三、前橋地方裁判所昭和三七年(モ)第一四七号仮処分異議申立事件判決の誤りについて

前橋地裁の右判決は前記三一六八坪の貸借が終了したものか否かを審理したものであるが、同判決は以下のように重大なる誤りを犯しているのであつて破毀されること必定である。

1、右判決に曰く、

「そもそも一般自動車道は道路法上の道路とは異り私道たるの性質を有するものではあるが、その自動車道事業は特許企業であつて事業者は免許された供用約款の定めるところにより所定の条件を満せば何人に対しても供用義務を負担するのであつて、その点で専用自動車道とも異つて多分に公共性を有し、従つてその開設、構造管理についてはその公共性に鑑みて厳重な法的規制が加えられているのである。従つて、一般自動車道についてもその公共性よりして道路法の道路に準じて一般的には私権の行使が制限されるべきものである。(この点につき道路法第四条は、一般自動車道に準用されると解するのである)。そこで本件についてこれを見ると、成立に争ない疏甲第六号証によれば自動車道開設許可の条件として認可を受けなければ道路設備の全部又は一部の供用を休止し又は廃止出来ないことになつていて債権者(本件申立人)は本件自動車道の維持管理について主務官庁の厳重な規制監督を受けていることを認めることが出来る。してみれば本件土地についての債権者債務者(本件被申立人)間の貸借契約の性質が賃貸借であるか使用貸借であるかに拘らず本件自動車道の休廃止を招くが如き債務者の本件土地所有権の行使はおのづから制限され、従つて貸借契約に期間の定めがあり、貸主が必要とする場合借主がいつでも返還する旨の条項があつたとしても自動車道休廃止の免許がない限りそれらは当事者に私法上の権利義務を生ぜしめる条項ではなく期間の定めは契約条項の据置期間であると解するのが相当である」と。

2、右判示事項には次の点に重大なる誤りがある。即ち

(一) 道路法第四条は一般自動車道に準用出来ないものであるのに右判決はこれを誤つている。

(1) 右判決は一般自動車道の公共性に強く眩惑されたと考えられるがその公共性は道路法上の道路の公共性とその性格が根本的に相違するものである。

国家存立の三要素は、人民、主権、領土であるといわれる。領土は国家存立の要素であつてこれに統治権(主権)を行使するに要するのは道路とその他の部分とである。道路法上の道路は国又は地方公共団体が主権自治権の行使、産業の発達住民の教育、福祉その他国又は地域社会たる地方公共団体の存立のために造設する基礎設備であり、又社会秩序維持のための基本的物的施設である、これを規制するのが道路法である。従つてその管理主体は国又は地方公共団体である。このことは公道といはれる所以である。然るに一般自動車道は事業者が利益追求のために有料で自動車道を造設するので儲からなければやらないですむことである。又管理者は一私人又は営利会社であつて公共団体ではない。道路法上の道路は存続維持管理することが国民に対する政治的公共的義務であつて、採算を考えることなく維持せねばならぬものである。その供用方式は、無料公開であるが一般自動車道は有料(従つて非公開)である。管理権の淵源は、前者は行政権であり、後者は主務官庁の免許である。道路敷地自体前者は公物であるが後者は私有財産であり所謂私道である。

私権行使の制限の根拠は斯く道路法上の道路が基本的に、公共性が本来的性質であることに加えて、土地を提供する際の私人の道路造設者(国又は地方公共団体)との間の契約が、斯かる公共性の本来的な道路の敷地として提供する契約であることとそれに適正なる補償契約が行われている公法上の契約関係の存在に因る。然し一般自動車道は、営利会社が営利のために企画するのであつて如何なる公共団体も、又国も一私人や営利会社に一般自動車道を開設することを命ずることはあり得ない。このように存立自体に公共性があるのではなく、存立している場合は、その管理上の怠慢が公衆に悪影響を及ぼすことになるから主務官庁の監督が厳重なのである。

この意味に於て右判決は公共性を誤解し一挙に道路法上の道路と、一般自動車道とを混同した重大な誤りがある。

(2) 右判決は主務官庁から厳重なる監督を受けているから公共性を逆に推論するかの如き口吻であるが、一般自動車道は、長大なる設備と、多数の人々を相手とすることと高度の技術の所産である自動車の運行に支障なからしめる注意義務とにより、その管理方法が劣悪であるときは公衆に多大なる迷惑、災厄を与えることになるから厳重なる監督に服せしめられているのみであつて、その存在自体に公共性があるわけではない。その休廃止に免許が必要とされているのは維持管理に監督を厳にしていることと一貫せしめているにすぎず業者が休廃止せんとするについて、主務官庁(大臣)がこれを維持々続せしむべく強制することはあり得ざることである。

因みに、本件一般自動車道三一六八坪を被申立人(判決文中の債務者)が返還を求めるのはこれを返還させて閉鎖して一般自動車道を遮断するがごときことを目的としているものでもなく実際上もかゝることはあり得ないことである。従来通り通行の用に供すべく一般の町道に認定すべく議会において既に議決ずみである(乙第  号証参照)。これが返還を求める実質的理由と必要性は、三一六八坪によつて二分される字モロシコ一〇五三ノ二六の土地五五五町余に潜在する観光価値を開発し、教育施設すら不充分な寒村的存在である被申立人の財源を確保せんとするにある。これが開発により教育事業、道路改修、産業の振興その他地方公共団体の使命を果さんとするのであつてその目的は全く公共的なものである。これを達すべき観光開発上、右五五五町余の土地を縦断二分して占拠するこの申立人の使用する三一六八坪の返還は是非必要なことで、これが返還がないと著しい不便と不利益を強いられ、観光開発と財政確立の実施は、挫折せしめられるのである。現に申立人は本件交叉点に先ず有刺鉄線と木柵を以つて障碍物を突然造設し次いでガードロープと称して一そう堅固なる障害物を造り、町道(浅間線)すら遮断され、あまつさえ行政代執行により、撤去せんとするや暴力を以つて抵抗する如き全く言語に絶する横暴を続け、更に本件停止決定申請の如き理由なき申立に応接せしめられているのであつて、斯かる点から見ても返還を必要とすることは明々白々であろう。

(3) 道路法は昭和二七年法律第一八〇号として公布施行されたものであるが、道路運送法は昭和二六年法律第一八三号として公布施行され、その前後関係は道路法より道路運送法の方が早い時期に公布施行されているのであつて、これを時の前後を遡及して解釈で準用するのは不自然であり極めて慎重でなければならない。

(4) およそ、私権の制限は、特別法に明定し且つその制限に代るべき補償措置を講じて、はじめて公共の福祉による制限に服する例外的取扱をなすことが出来るものである。公権力が私権を軽々に制限する時は公共の福祉の名の下に全体主義の風潮が醸成されるが故に、憲法は殊に慎重なる規定を以つて国家権力の行使を自制しているわけである。道路法第四条は、前述の如く本来発生的に公共性を有するものなるが故に、且つ適正なる補償措置を講ずるが故に、私権の行使を制限することを例外的に規定したものである。原理的にも実際上に於ても斯く例外的な規定については法律常識として常に厳格にこれを解釈すべく、拡張解釈や類推解釈は常道に反し、許されないものである。

然るに、前記のように第二次的派生的な公共性に過ぎない一般自動車道にこれは準用したのは明らかに違法である。

(二) 右判決は私権の行使が主務官庁の第三者に対する監督の存否にかゝることを前提としているから憲法及び民法の解釈を誤つた法令違背がある。

財産権の不可侵は憲法第二九条に明定するところであり公共の福祉に資される場合でも正当なる補償を要するのに右判決は補償に何んの手続的保証もないのに直ちに道路法第四条を準用して本件私権の行使を制限したのであるから憲法第二九条に反する。

又、主務官庁の休廃止の免許申請は債権者が為しうる行為であるのに、これが申請行為の存否に言及せずして私権の行使を制限すべき旨の判示をしたのは正に論理の飛躍である。(その他種々の矛盾撞着があるが省略する)

四、右三一六八坪の返還を履行した場合の債権者(申立人)の利害について

申立人は一般自動車道の長さを一九・七キロと称しているが、これは昭和五年と昭和六年とに、それぞれ六・五キロ及び一三・二キロの二本建に免許を受けて居り、二本のこの有料道路の略接続点に本件モロシコの土地が存するのである。申立人はこの三一六八坪の道路敷を被申立人に返還してもこの部分だけ一部廃止し、公道としてこれを通らせ、又有料道路を通らせることが出来るから失うべき何物もないのである。現実に二本建の有料道路であつて、料金徴収のゲイトも三ケ所はあり、何ら新しい設備を要せずしてこれを返還し得られる。却つて町道浅間線を通つて来た観光客が鬼押出岩を見た上、同じ道を帰ることを好まず(一般に観客は同じ道を引き返すことを好まないものであるし、これは経験則である)に申立人の有料道路を通つて他へ廻遊するから申立人にも利益があるのである。

五、而してこの理は現に本件交叉点部分につき申立人が遮断を拒絶するべきでなく、喜んで通すべきことに一致する。何ら申立人に損失はない。(若し交叉点に於て交通事故の危険を申立人が感ずるならば交叉点に近いところに徐行の標識を建てたり監視者を置いて交通整理を試みれば良いであろう)

以上述べ来たつた通り申立人には何ら占有使用すべき法律上及び実質上の理由がないのであつて本件申立は全く理由がないから、速やかに却下せられたい。

第二点

一、被申立人の本件町道は町道認定前の昭和二九年二月二六日群馬県が厚生大臣の承認を得て自動車道を開設し同年一〇月一日から一般に供用されたが当時から浅間牧場より申立人の一般自動車道を横断してその先約一〇〇米の地点にある押出駐車場迄通行がなされていたものである。この状態にある道路を被申立人は右県から譲受けたのであるが、申立人は右の事実を当初から知つていたものである。

二、被申立人は、右の如く既に開設され通行されている道路を町道に認定したものであるが、認定に先だち昭和三四年一月一七日と同年二月五日の二回に亘り前記留保約款に基き(或は先に主張した通り五ケ年の経過した昭和三三年六月二二日を以つて契約は消滅している)貸付土地全体(三〇六八坪)ではなくてその一部たる本件横断部分について町道認定のため返還を要求した。右返還要求は形成権であるので申立人の同意を要しないものである。(尚その時申立人は将来東急の定期バスが運行されるに至つた場合は承知しない旨述べていたが、長野原町が使用することは承認していたので、町道認定のための右返還要求には同意したというべきである)

そして被申立人は同年三月一三日嬬恋村より右通行状態にある道路を町道として認定するにつき議会の議決を得た上、町道浅間線として認定公示し、同月三〇日区域決定並びに供用開始の公示をなしたものである。

(尚嬬恋村の同意を得るについては、浅間牧場より申立人の一般自動車道を横断して約一〇〇米先の押出駐車場に至る道路で既に約五ケ年間通行され使用されている状態の道路について、同意を求めたのであるから、一般自動車道の部分のみを切断して除き、残余の部分のみの承諾を求めるということはあり得ないし、又これを除いて同意を求めたことも承認を得たということもないのである)

以来四ケ年余被申立人は申立人から右供用開始につき異議申立等の不服の申立を受けた事実はなく、平穏無事に何等の事故もなく通行され、現在に到つたものである。

三、申立人は路線認定の事実は知つていたが、供用開始はないものと思つていたという。然し乍ら新たに道路を開設する場合はともかくとして、本件の場合は既に通行されている道路についてこれを町道となすものであるから、町道としての路線認定をなしたる以上引続いて区域決定供用開始が行われることは事理の当然であつて、路線認定を知る以上引続いてなされる区域決定、供用開始をしないということは言えないし、言うとすれば甚だ不自然である。そして、本件の場合現場での開設工事を必要とせず、只議会の議決公示等事務的手続をなせば足りるものであるから町道認定のための返還要求を受ければ供用開始迄の一連の手続は直ちに行われるものであり、知らない筈はないのである。

四、申立人は区域決定並びに供用開始の公示に承諾を与えていないので、供用開始は当然無効であるという。

然し乍ら、本件は前記内容の事案であり、且つ道路運送法第七三条第一項により、申立人は被申立人の町道造設を拒み得ないものでもあり本件町道の認定、区域決定並びに供用開始は有効である。申立人の主張を以つてしても重大且つ明白な瑕疵のないこと明らかであるから、その主張を取り上げるとしても、それはせいぜい行政行為取消の問題とみるべきものである。(勿論斯かる問題についてもこれは争うが)

(最高裁判所昭和三〇年一二月二六日第三小法廷判決、民集第九巻一四号二〇七〇頁参照)

申立人は、被申立人より前記の如く既に約五ケ年間通行している道路について昭和三四年一月と二月の二回に亘り町道に認定したいので、横断部分を返還されたい旨の通知を受けており、又供用開始の告示後四ケ年余現実に通行されている現場の事実を知つているのであるから、現在本案を提起する正当な理由もないのである。

五、申立人は、昭和三八年六月一八日仮処分執行停止事件に於ける審尋において唐沢助役より供用開始の事実を聞き初めて知つたというが、前記の如く町道認定のための返還要求を受けているので、斯ることはあり得ないのである。

又、仮りにそうだとしても、前記の如く区域決定並びに供用開始の公示が昭和三四年三月三〇日既になされているのであるから公示制度の趣旨に鑑み申立人が現実に知得したと否とを問わず、右公示の日に知つたものと言わねばならない。(最高裁判所昭和二七年一一月二八日第二小法廷判決、行裁例集第三巻一一号二二〇二頁参照)

第三点道路運送法第五一条と第七三条との関係

(一) 申立人は、道路運送法第五一条を根拠として被申立人があたかも立体交叉の義務があるかの如き主張をしているが、同法第五一条は、「自動車道及び自動車道事業」の章の中の規定であることからも明かなとおり、一般自動車道の建設にあたつての技術上の基準であり、自動車道事業者の義務に他ならない。それ故に、同条により立体交叉の義務を負うのは他ならぬ申立人自身であり、これはまさに同条の文言の明示するところである。

これに対して、同法第七三条は、他の道路が既設の一般自動車道に対して横断・接続等する場合の規定であつて、一般自動車道事業者は原則としてこれを拒みえないものと規定されているのである。蓋し、道路法による道路は公道であつて極めて公共性の強いものであるが、道路運送法による道路は営利目的のための単なる私道にすぎないのであるから、その公共性の程度においてはるかに前者が優越し、公道優先の原則がはたらくからである。

したがつて、同法第五一条も第七三条も自動車道事業者たる申立人に対してかゝる公益的見地からの義務を課しているのであり、第三者たる国及び地方公共団体に対する義務規定ではない。これは道路運送法が自動車道事業に対する行政的監督法規であることからの当然の事理である。

(二) ところで、同法第七三条三項より、一般自動車道を横断して道路法による道路を造設するにつき、主務大臣の裁定を要するのは、次の二つの場合である。

第一は、一般自動車道を横断等して道路法による道路を造設しようとする場合に、自動車道事業者がこれを拒んだ場合である。しかるに、被申立人は申立人がなした本件道路の区域決定並びに供用開始の行政処分に対して法定の異議申立をなしていないので、これを拒んだことにはならない。

第二は、主務大臣が公共の福祉を確保するため必要があるものと認めて、自動車道事業者に対して構造・設備の変更又は設備の共用を命じた場合である。しかるに、本件の場合にはかゝる命令は出されていないのである。よつて、申立人の主張はこの点についても全く法律上の根拠を有しないことは申立人の主張自体からみて全く明かである。

第四点行政処分の無効確認訴訟と行政処分の効力の停止の不許容性

申立人は本件停止申立の本案訴訟において、被申立人が昭和三四年三月三〇日になした町道浅間線の供用開始決定処分の無効確認の請求をなし、かつ、本件停止申立においても右行政処分が無効である旨を主張しているのであるが、しかし、他方においては、本件停止申立において右行政処分の効力の停止の裁判を請求していることは、その申請の趣旨からみて明かである。ところで、行政処分の無効確認訴訟においては、行政処分の執行又は手続の続行の停止を請求することはできるが、行政処分の効力の停止を請求することは、理論的にいつてありえないものである。すなわち、行政事件訴訟法第二五条は、取消訴訟に関して、行政処分の執行又は手続の続行の停止の他に、行政処分の効力の停止をも規定するが、これは、取消訴訟においては当該行政処分が判決により取消されるまでは、一応その効力を有するからである。しかるに、行政処分が無効であるときは、その行政処分は始めからその効力を有しないのであるから、かゝる場合には当該行政処分の執行又は手続の続行の停止ということはありえても、その効力の停止ということは理論上認められる余地が全くない。蓋し、行政処分の効力の停止とは、当該の行政処分の法律効果を停止するものであるから、当該の行政処分が当初より無効であつてその法律効果が発生していない以上、かゝる存在しない法律効果を停止することはありえないからである。したがつて、同法第三八条三項による同法第二五条の準用は、行政処分の執行又は手続の続行の停止に関するものであつて、行政処分の効力の停止は無効確認の訴に準用される余地はないのである。

しかるに、申請人は本件行政処分が無効であることを理由としてその処分の効力の停止の申立を請求しているのであるが、これは理由自体が失当であり、その理由の当否を判断するまでもなく、直ちに本件停止申立を却下すべきものである。なお、本件行政処分は、道路の区域決定及びその供用開始という意思表示的行政処分であり、それ自体観念的なものであつてその執行ということもなく、又、それ自体完結的なものであつてその手続の続行ということもありえないのであるから、本件行政処分に対してはその執行又は手続の続行の停止ということも、ありえないのである。したがつて、本件申請の趣旨をいかように申立人に対して好意的に解するも、本件停止申立を認容する余地はありえない。

第五点執行停止命令の具体的要件について

(一) 行政事件訴訟法第三八条三項同第二五条二、三項は、所謂執行停止について 〈1〉本案提起のあつたこと 〈2〉処分、処分の執行又は手続の続行により回復困難な損害が発生すること 〈3〉而して右損害を避けるため緊急の必要があること 〈4〉しかも右執行停止によつて回復困難な損害の発生を避け得る場合であること、等これを許容するための積極的要件と 〈1〉公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき〈2〉本案について理由がないとみえるとき、のいずれかの場合にはこれを阻止する旨の消極的要件を規定している。

いうまでもなくこの執行停止命令は、違法処分の執行による原告の権利もしくは利益の侵害に対し原告の地位を暫定的に保全することによつて、抗告訴訟の目的を実質的に達しようとするものであり、仮の地位を定める仮処分に類似するのであつてその要件は極めて厳格に解されなければならないのみならず仮処分の場合と異り保全目的を達するための処分方法は、執行停止に限定されるのであるから前記各要件の他に停止の前提要件ともいうべき執行停止の対象となる行政処分、執行停止の時期等が当然に問題とされなければならない。

申立人のこの点に関する主張を観るに申立書第六項によれば〈1〉無効確認訴訟終結まで放置しておけば被申立人において代執行をしてしまうことが必至であること〈2〉代執行がなされれば不祥事件の発生も考えられること〈3〉放置しておけば一般自動車道に人や車が出入して交通事故発生の危険があること、よつて人命保護の点から事態は緊急であること〈4〉申立人において莫大な損害を蒙ること、等の四点が主張されているので前述法上の要件を念頭におきつつ本件申立人の主張において同要件が充足され執行停止をなすまでに至つていると考え得るか否かについて意見を述べる。

(二) 本件停止申請において申立人の求める停止の対象たる行政処分は、被申立人のなした昭和三四年三月二五日の路線認定及び同年三月三〇日の区域決定のうち一般自動車道敷地に関する部分に対する供用開始決定処分の如くである。而してその狙いとする処は、一般自動車道横断部分が実は町道浅間線として認定供用開始決定されていることは効力のない行政行為に基づくものであるので、同部分には法律上町道が存在しないものであるという仮の地位を定めて貰わんとする処にある。かようにして本件停止によつて、仮の地位が定められれば右部分に対する被申立人町の爾後の行政代執行は違法化されるので同代執行を阻止しうる結果を招来せんとするにある。狙いは路線認定、区域決定供用開始決定それ自体の効力の停止に非ずして爾後の代執行を抜本的に阻止しようとする処にあること明白である。かように直接的行政行為の停止や特定の反射的効力の停止に留らず行政行為によつて発生した効力のすべて更には将来予測される別個の行政行為の停止を求めることは行為の効力が発生しなかつたと同一の仮の地位を求めるものであつてかかる執行停止は許されない。(昭和二四年一二月二日大阪高裁決定昭和二四年(ラ)六八号、昭和二八年七月三〇日山口地裁決定、昭和二八年(行モ)五号)

(三) 申立人が停止を求める行政処分は、申立人において主張しているとおり被申立人町において昭和三四年三月三〇日認定、且つ供用開始決定して右行為は終了しているのであるから申立人の求める執行停止は許されない。行政処分の執行停止命令がなされる時期に関連して対象たる行政行為の内容が未だ実現しないと認められる場合に該処分が停止の対象となることは明らかであるが、行政処分の既に完了した後に該処分或いはそれを前提としてなされた後行政処分を対象として執行停止をなしうるかは極めて疑問である。執行停止の効果は、将来に向つてのみ生ずるのであるから処分の効果が、かりになお争いうる状態にあつても一旦処分の執行が終了したと認められる限り、執行停止の対象は失われその効力を既往に遡及させられないから、これを許すべきではないのである(大阪地裁決定昭和二四年五月二八日行裁月報二三号三五六頁。東京高裁決定昭和二五年二月二三日行政裁集一巻六四頁)蓋し行政処分の執行停止は、それが執行行為を停止するものであると、あるいは効力を停止するものであるとを問わずいずれにしても一時的に行政処分が将来に向つて進行することを阻止し、その限りにおいて行政処分が存在しないものとして取扱うことにするにすぎず、それ以上に行政処分の一時的取消の効果を与え、あるいは過去に生じた効力まで遡及的に停止するが如き行政行為の根幹にふれる措置をとることは権利保全を目的とし本案判決前の仮の措置たる性質を存する執行停止によつてはもはやその限界をこえるものであつて許されないからである。

(四) 積極的要件の第二に挙げた処分の執行により償うことのできない損害の生ずるおそれがあることの点について申立人の主張を観ると唯単に「申立人会社としてもこれによつて莫大な損害を受けることになるので」と述べられているのみであつて〈1〉右損害の具体的内容の明示もなく〈2〉右損害と被申立人町のなした行政処分(申立人が本案において取消乃至無効を主張しているもの)との因果関係即ち前記行政処分によつてどれだけの損害が発生しているのかの明白な陳述も皆無であり〈3〉本件停止によつて該損害が避けうるものであるか〈4〉更には、発生する損害が回復困難なものであるか否かの主張はいずれも皆無であるのみならず償うことのできぬ損害の発生があることは全く考えられない。この点に関する申立人の主張は要件不備であり却下を免れない。

(五) 次に損害を避けるための緊急の必要があるか否かについて申立人の主張を観ると、本件停止がなければ〈1〉被申立人町において行政代執行をなすこと〈2〉それに伴い不詳事件発生の危険あること〈3〉交通事故発生の危険あることの三点を羅列的に列挙して居りその内容については一言半句も主張していない。

先ず被申立人において行政代執行を行うか否かの点について陳述する。もともと一般自動車道と町道浅間線の交差する部分は、昭和二九年群馬県により施設供用開始せられた観光道路と一般自動車道とが相互に交叉横断して居たものであり爾来今日まで一〇年間又右道路を被申立人町が群馬県より譲渡を受けて昭和三四年三月町道浅間線として町道に認定供用開始して以来四年間何等の故障もなく平穏無事に相互に交通が行われていたものである。しかるに昭和三八年五月五日突如不法にも申立人が右交叉部分を有刺鉄線付木柵で閉鎖し、被申立人の町道を遮断し一般公衆の通行を阻止するの挙に出たのである。一〇有余年来の平穏無事な状態をつづけておつたところ突然波紋を生ずる矢を投げたのが右町道遮断の申請会社の暴挙であつたのである。そこで被申立人は町道管理の責任上やむを得ず町道管理上同年五月三〇日再三の催告の末代執行によつて右木柵を撤去した処申立人は該撤去跡に即日より堅固なガードロープを造設し町道遮断を実力で継続すると共に右障害物が恰も一般自動車道保護施設である町道を閉鎖しているものではないかの如く称し御庁に仮処分命令を申請しその命令を得た(御庁昭和三八年(ヨ)第五四号)。被申立人は右決定に対しその執行停止を求めた処これが却下の決定を受けたのであるが(御庁昭和三八年(モ)第一四〇号)右却下決定の判示事項中右仮処分決定が行政代執行を阻止するものではない旨の理由を得たので、被申立人町は、昭和三八年六月二七日行政代執行により町道上のガードロープ等を撤去すべく戒告書を送付した処申立人は御庁において右戒告書に基ずく代執行停止の決定を得た(御庁昭和三八年(行モ)第一号)。そこで被申立人は昭和三八年七月六日更に町道上のガードロープ撤去のための戒告書並びに代執行令書を送付し同月八日町道のガードロープを撤去した。

よつて被申立人は既に代執行の完了により代執行の目的たる町道上の障害物は除却しおえたので将来本件に関し申立人の主張する如く代執行をなす必要も危険もあり得ないものである。申立人が更に再々度前記代執行を無視し障害物除却跡に別個な障害物を建設した場合に於ても被申立人は前記代執行の後である昭和三八年七月一二日東京地方裁判所八王子支部昭和三八年(ヨ)第二一号仮処分決定を受けその執行を完了しているので被申立人において障害物除却のための代執行を行う必要もないのである。

よつて申立人主張の本件停止決定を得なければ被申立人において代執行を行う危険がありそれに伴い不祥事件が発生するかもしれないという主張は理由のないことであり極論すれば申立人の主張は現に町道上に代執行の対象たる障害物が存在することを前提としての論理であり事実を歪曲した主張である。既に町道上に障害物が存在せず通行に支障なきことは公知の事実であり(昭和三八年七月九日付各新聞)その対象なき処に行政代執行もあり得ないのである。不詳事件が発生するか否かは申立人の所為一つにかゝつている処でありこの点に関する申立人の主張は理由がない。

(六) 申立人は、一般自動車道上に於て交通事故が発生するかもしれないので人命保護の上から緊急を要する旨主張するが、行政事件訴訟法にいう「緊急の必要」とは、「回復の困難な損害を避けるため」に必要な緊急性を称し、それ以外の緊急の必要は何等包含されない。蓋し同法上の執行停止とは、訴訟を提起した者が終局判決の確定に至るまでの間に処分の執行により損害を受け後日勝訴の判決を得てもその損害を償うことのできない場合を救済することを目的とし訴訟提起をなした者以外の者の利益を考量した規定ではないからである(東京高裁決定昭和三一年(ラ)第一八一号)。してみれば申立人の主張する緊急の必要とは、主張自体明らかに的外れのものであり交通事故発生の観念的危険の蓋然性乃至未来像(はるかなる危険)を以て本件停止の要件を充足したりとすることは理由がない。事実、本件交叉部分においては、昭和三九年群馬県において供用開始する以前は勿論其の後今日に至るまで一度たりとも交通事故の発生した事実はないのである。附言するに被申立人町においては、前述東京地裁八王子支部の昭和三八年(ヨ)第二一〇号仮処分命令執行後本件交叉点附近に交通整理員の詰所を設置し、事故発生防止につとめているのである。

(七) 本件停止によつては、申立人の主張する損害の発生を避けることはできない。即ち前述したように申立人の主張する本件の必要理由について第一の行政代執行を実施されるという理論的、事実的可能性は、目的物の存在しない処からあり得ず従つて右に伴う不祥事件の発生余地もなく第二に昭和二九年以来本件係争地点である交叉部分は平穏裡に交通が行われて居り本件停止がなくても従来の平穏状態がそのまゝ継続されるだけであつて、申立人に対し特別の又新らしい損害を何等発生させるものではなく況んや回復し難い損害を発生させることは全くあり得ない。それ故本件停止は、申立人に於て新たに町道上に障害物を設置する暴挙に出れば格別、現状に於ては申立人の回復し難い損害の発生を防止する等の意義は全くないのである。換言すれば路線認定から供用開始決定までの各行政処分が将来に向つて観念的に存在しない状態を作出してもこれによつて直ちに申立人の主張するような損害の発生が防止されるものでもなく無意味なことに帰するばかりか却つて申立人をして更に障害物設置の不法目的を実現させ事案を紛争させる動機を設定する以外の何ものもないのである。

(八) 以上は申立人の主張に基づいてその執行停止要件について意見を述べたのであるが、前記要件が仮に充足されたとしても事件停止によつて被申立人町の実現しうべき町営観光事業計画は挫折させられ、予算執行は停止を余儀なくされる等公共の福祉に重大な影響あるものであつて申立人主張の停止は決してなされるべきではなく、しかも公共の福祉に影響ありや否やは職権調査事項であると思料されるのである。

本件係争があくまでも昭和二九年以来何等争いの無かつた本件交叉点上において申立人会社の無暴な公道閉鎖に起因することに想を致せば右閉鎖状態を強行的に再現しようとする申立人の意図は排斥されるべきであり、右交叉部分を含む一般自動車道敷地約一三五〇米、三一六八坪が被申立人の所有地であり、右土地の無料貸付期間が昭和三七年六月二二日限り満了し右土地に対する申立人の爾後の占有使用が法律上不法占拠となつて居り別訴でこれが返還について争われていることを思えば申立人の本件申立の無暴さは、まさに思いなかばにすぎるものがあるのである。事情御賢察の上、各論点について裁判所の高明なる判断を仰ぐ次第である。

(別紙四)

補充意見書

第一本件町道認定について

申立人は町道浅間線の認定について嬬恋村々長黒岩伝五郎氏の証明書を疏第一五号証として提出し、申立人会社所有の一般自動車道の敷地について当社は嬬恋村に町道認定の承諾書を与えた事実はない旨主張している。その立証趣旨は必ずしも明確でないが承諾しないから当該町村道認定行為は効力がないとの主張につながるように思われるのでこの点について意見を述べる。

路線認定とは路線を確定する行為でありその法律効果は路線の指定と同様当該路線に属する道路を道路法上の道路たらしめ、あわせてその道路管理者を決定せしめることである。即ち市町村長が路線の認定を行つた場合には当該路線に属する道路が市町村道となると共にその道路の存する市町村が該道路の管理者となる。具体的には認定された道路は町道〇〇線と称されるわけである。

ところで道路法上の道路である町道は当該町の区域内にあること(例外あり)及び市町村長がその路線を認定したことの二要件によつて成立する(道路法第八条)。都道府県道のように特に定めた法定要件はない。これは市町村道が有機的に構成された道路網の最小路線即ち毛細血管の如き作用を有するものである処から地元の住民の意思を充分に反映せしめて適宜町村道を認定できるようにしたものである。

ところで本件町道浅間線も右道路法の趣旨に則し、当該路線所在地が隣接嬬恋村に所属する処から被申立人は嬬恋村の議会の議決を経て同村の承諾を得区域外路線認定を瑕疵なく終了しているのである。この一運の行政行為に関しては右説明にかかる要件の外何人の承諾も要しないものであつてこの点についての申立人の主張は理由がない。嬬恋村議会の適法な承認を得たことについては本日付提出にかゝる同村議会第五二回会議録(昭和三四年三月一一日)で明らかな通り「位置は、長野原の町有林内を専用道路を横断して駐車場の処まで」であり、明らかに申立人の一般自動車道を横断していることを知るのである。有料道路横断について嬬恋村の承諾なき旨の従つて本件路線認定の効力がないとの申立人の主張は理由のないものである。

第二回復し難い損害の発生について

(1) この点について、既に意見書に於て詳説した処であるが申立人は本件交差点附近有料道路上に於て交通事故が発生するかもしれない旨主張する。しかし乍ら本件執行停止の要件である〈1〉処分の執行又は手続の続行により生ずる回復し難い損害を避けるため〈2〉緊急の必要ある場合に該当するか否かについて審究する。この点の審究については、本件係争の実相を先づ把握しなければならない。

(2) 本件町道浅間線は、昭和二九年一〇月群馬県が開設し同年一〇月供用を開始して公衆の便益に供し昭和三四年三月被申立人町に於てこれを譲り受け町道に認定且つ区域決定の上供用開始決定して今日に至つた。その間本件一般自動車道と平面交差し何等の故障もなく一〇年余平穏公然と公衆の利用に益されて来た。右事実は歴史的事実として確定されて来た処である。

しかるに申立人が右歴史的事実を昭和三八年五月五日突如破壊し、町道との交叉点に有刺鉄線付木柵を造り無暴にも町道遮断の挙に出るに至つた。右木柵を同年五月三〇日行政代執行によつて被申立人が取払うや同一場所により堅固なガードロープを造つたのである。申立人は、右ガードロープを一般自動車道の保護施設なりと強弁し御庁に対し右保護の仮処分決定を得(昭和三八年(ヨ)第五四号)更には行政代執行停止決定を得(昭和三八年(行モ)第一号)右歴史的事実変更にきゆうきゆうとしている。昭和三八年七月八日被申立人に於て適法なる行政代執行により本件町道上の妨害施設である前記ガードロープを除去するに及ぶや申立人は本件町道の供用開始決定を無効なりと称し行政事件訴訟の提起に及び(昭和三八年(行)第五号)同時に本件停止申請を為すに至つた。被申立人町は昭和二九年以来の歴史的原状に回復させるための行政代執行を為し前記障害物を除去したのである町道の通行妨害物を除去し従前通りの通行を確保したものである。

(3) 右歴史的な原状回復状態を確保するため被申立人は、東京地方裁判所八王子支部に対し本件交叉点附近に対する当事者相互の通行を保全し妨害を除去するための仮処分命令を得執行した(同庁昭和三八年(ヨ)第二一〇号)。本件交叉点についての争いは申立人に於て町道遮断の暴挙に出たことに起因する。

(4) さて申立人は従来からの歴史的状態を自ら破壊しておき乍ら破壊した状態を維持しなければ回復し難い損害発生の緊急な必要ありというのである。而してその理由として交通事故発生の危険を挙げている。しかし乍ら仮に申立人経営の自動車道上に於て交通事故が発生した場合申立人が一切賠償の責に任ずるというのであろうか、更に国道上の事故は国が県道上のそれについては県が常に必ず責任を負担するのであろうか、停止の要件にいう損害とは、申立人自らに帰属する損害でなくてはならないことは多言を要しない。それ故交通事故発生の危険を以て停止の要件とすることは全く理由なきものである。

(5) しかも本件停止即ち供用開始等の行政行為の停止を求める申請に於ては、右手続を続行乃至執行を継続することによつて回復し難い損害の発生する場合を救済するのである。然るに申立人の求める停止の対象たる行政行為は既に昭和三四年三月完了しているのであり既にこれ以上手続乃至執行を続行するということは考えられない。現に一般公衆の供用に資されていることは行政行為によるものではなく完結した行政行為のもたらす結果的状態であつて行政行為の未完成乃至行政処分の続行状態と観念すべきではない。してみれば既に完結した行政処分に対し、しかも執行乃至手続の続行ということが考えられない区域決定、供用開始という行政行為に対し停止という観念そのものがさしはさまれる余地もなく停止を求めることは理論上あり得ないものである。無効論、取消論は別論として本件の如き停止という考え方は絶対にあり得ない。この一点を以てしても申立人の申請は却下されるべきである。

第三本件交叉点附近の現状と本件停止の不要性

以上の次第で本件停止申請許容の余地は無いが、又常識的に観ても一〇年来継続されて来た状態に原状回復されたからと言つて回復し難い損害が発生する余地もあろう筈もないのであつて本件停止申請は却下されるべきであるが、被申立人町としても本件交叉道路付近において交通事故等が発生することは好ましくない事態であることに鑑みて昭和三八年七月二二日以来右交叉点側に町道浅間線管理舎を設け常時三人以上の交通整理員を配置し交通事故等の発生防止に努めている。

殊に同年七月二十七日以降は、交通整理方法を体系的に確立し徹底するため合理的整理方法をとるに至つた。即ち、〈1〉先づ浅間牧場方面から町道浅間線を通つて本件一般自動車道との交叉点に至る自動車の凡てに浅間牧場に於て交通整理要領を記載したビラを車掌及び運転手に配布し乗客に口頭でその要領を徹底して貰つた上、町道浅間線管理舎前で停車させ、国土計画KKの経営する岩窟ホール有料入園地へ行く客はその場で下車させ管理舎側から一般自動車道にそつて岩窟ホールへ通ずる歩道を通行させるように指導し、長野原町営鬼押出施設へ行く客は、そのまゝ自動車で手旗信号に従つて横断させ自動車は町営駐車場で待機させ、岩窟ホールから歩道上を通つて帰つて来た客を前記降車場所である管理舎前で乗車させることによつて有料道路上を徒歩で歩くものを皆無とし、〈2〉又岩窟ホールのみの観光を目的とする客のみを乗車させた車はそのまゝ手旗信号に従つて同所へ向わせ〈3〉町営施設観光客は、そのまゝ町営駐車場で乗降させ〈4〉峯の茶屋方面から有料道路を通つて来た自動車で岩窟ホール観光のものは前記管理舎前で乗客を乗降させ自動車だけ町営駐車場で待機させることゝした。

都会地の混雑著しい場所と異り午前八時から午後六時に至るまで右交通整理方法によつて安全確実に保安の目的を達することゝなつたので申立人の交通事故発生の可能性を停止の理由とすることは全く理由がなくなつたのである。右整理方法はシーズン中継続するのである。

第四町道浅間線の利用について

右は浅間牧場と鬼押出を直線で結ぶ処から公衆の利用者多いのみならず、申立人会社系のバスも昭和三八年七月に至り観光客を募集し町道浅間線を利用して本件交叉点を運行し利益を挙げている。申立人の本件停止申請は自己矛盾であり、本件停止の必要を自から否定し、本件道路の重要性を実証しているものである。

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